原子レベル分散金属触媒の開発


▼水素エネルギー関連材料の省貴金属化と長寿命化の実現

 現在,燃料電池電極触媒として埋蔵量の少なく高価な白金が用いられています.白金(Pt)の使用量を低減する方法の一つに,白金触媒粒子の微細化があります.微細化した触媒粒子の担体候補材料として,ハチの巣状の六角形格子構造を持つ厚さ1原子の炭素系材料であるグラフェンがあります.グラフェンは大きな比表面積,高い電気伝導性や化学的・機械的強度という担体材料として優れた性質を有しています.

 しかし,燃料電池動作中にグラフェン上の白金触媒粒子が脱落・凝集し触媒性能が低下することが知られています.そこで本研究では右図に示すように,グラフェン格子中に不純物元素を置換導入し,白金原子のトラップサイトを形成することで白金の脱落と凝集の抑制を実現し,原子レベル分散白金触媒の開発を目指しています.

 また,水素吸蔵材料である鉄クラスターや,有機ハイドライドの(脱)水素化触媒である銅についても,同様に軽元素置換グラフェン担体を利用した新規材料を開発しています.

 軽元素置換グラフェン上での白金・鉄原子の吸着・拡散特性白金サブナノクラスタ―の酸素還元反応(ORR)触媒活性に関する結果は日本表面真空学会誌「表面と真空」に日本語論文が掲載されています.

▼軽元素置換グラフェン上での白金原子の吸着・拡散特性の解明

 詳細はS. Hasegawa et al., The Journal of Physical Chemistry C, Vol. 121, pp.17787-17795 (2017).をご覧ください.

 第一原理電子状態計算を用い,グラフェン中に置換導入された軽元素が白金原子の吸着・拡散特性に与える影響を解明しました.7種類の軽元素について系統的に研究を行い,以下の点を明らかにしました.

  • 炭素や窒素はグラフェン中への置換導入が比較的容易である.
  • 置換グラフェン-白金原子間の結合に用いられる電子は,置換元素に依存する.
  • 置換グラフェン-白金原子間には共有結合が形成される.
  • 酸素,アルミニウム,ケイ素,リンが特に凝集や脱離を抑制する効果が大きい.
  • 図 軽元素置換グラフェンによる白金原子の拡散抑制.
    Reprinted with permission from S. Hasegawa et al., The Journal of Physical Chemistry C, 121 (2017) 17787. Copyright 2017 American Chemical Society

    ▼軽元素置換グラフェン上での鉄原子の吸着・拡散特性の解明

     詳細はS. Hasegawa et al., e-Journal of Surface Science and Nanotechnology, Vol.16, pp. 193-200 (2018).をご覧ください.

     第一原理電子状態計算を用い,グラフェン中に置換導入された軽元素が鉄原子の吸着・拡散特性に与える影響を解明しました.6種類の軽元素について系統的に研究を行い,以下の点を明らかにしました.

  • 置換グラフェン-鉄原子間の結合に用いられる電子は,置換元素に依存する.
  • 置換グラフェン-鉄原子間には電子移動に伴う静電相互作用による結合が形成される.
  • ホウ素,酸素,ケイ素,リンが特に凝集や脱離を抑制する効果が大きい.
  • ▼軽元素置換グラフェン上での白金原子の吸着・拡散特性における水素雰囲気の影響の解明

     詳細はS. Hasegawa et al., ACS Omega, 4 (2019) 6573.をご覧ください.

     燃料電池動作環境中では,触媒の劣化が促進されることが想定される.本研究ではアノードを想定し,水素雰囲気が白金原子の脱離・拡散特性に与える影響を第一原理電子状態計算を用いて解明しました.6種類の軽元素置換グラフェン担体について系統的に研究を行い,以下の点を明らかにしました.

  • 水素原子や水素分子の吸着により,白金原子の軽元素置換グラフェン担体からの脱落が促進される.
  • 水素分子が吸着する場合,水素分子が解離するかどうかは置換元素に依存する.
  • 水素原子や水素分子の吸着により,白金原子の拡散が促進されるが,白金-水素原子の場合には拡散障壁が増加する場合も存在する.
  • 酸素,ケイ素,リン,原子空孔が,水素環境下でも凝集や脱離を抑制する効果を維持できる.
  • 図 水素雰囲気下での白金原子の拡散・凝集挙動.
    Reprinted with permission from S. Hasegawa et al., ACS Omega, 4 (2019) 6573. Copyright 2019 American Chemical Society