研究内容

概念図

当研究室では,エネルギー利用の高効率化とそのためのマテリアル開発基盤を構築するため,原子レベルの構造評価,ナノ計測技術,計算機シミュレーションを組み合わせ,材料のナノからマクロまでの特性とその起源をマルチスケールで解析・評価しています.そこから得られた知見に基づき,イオン注入・電子線照射を応用したエネルギー材料の機能化のための研究を展開しています.

特に,先進電子顕微鏡を活用した「材料解析手法の開発」,蛍光体や酸素吸蔵材料,耐水素脆化・耐腐食用保護被覆膜などの「機能性セラミックスの開発」,燃料電池電極触媒や(脱)水素化触媒などの「省貴金属化」に関する研究を中心に推進し,各種プロセスの省エネルギー化や水素エネルギー社会の実現に貢献しています.

現在実施している主要な研究テーマは以下のとおりです.

▼先進電子顕微鏡を用いたnmオーダーの光学特性測定手法の開発

電子エネルギー損失分光法(EELS)は材料の誘電関数などの光学的特性の評価が可能です.我々は,電子線を用いた誘電関数測定時の問題点を解決し,nmオーダーでの光学的性評価手法を開発しています.本手法を用い,モノクロメータを備えた先進電子顕微鏡と電磁気学シミュレーションを組み合わせ,プラズモニクス材料をはじめとする種々のエネルギー変換材料の特性解析を原子スケールで実施するとともに,先進エネルギー変換材料の開発とそれらの特性解明に向けた研究を遂行しています.

▶︎<研究例紹介ページ>電子顕微鏡を用いた局所領域の光学特性測定手法の提案
▶︎電子顕微鏡を用いた銀ナノ粒子の表面プラズモンの解析

界面などの局所領域の光学特性測定の概念図.

▼先進電子顕微鏡を用いたセラミックス蛍光体中の三次元ドーパント分布の解明

蛍光体材料などにおいて,材料中のドーパント分布は材料物性に大きな影響を与えます.我々は,通常では二次元的な構造情報しか得ることができない透過型電子顕微鏡を用い,材料中のドーパントの三次元分布を原子スケールで測定する手法を開発しています.本手法と電子顕微鏡シミュレーションや第一原理電子状態計算を組み合わせ,蛍光体材料の構造解析を原子スケールで実施しています.

▶︎<研究例紹介ページ>白色LEDに用いられるCa-α-SiAlON:Eu蛍光体の解析
▶︎燃焼合成を用いた炭素と酸素を共ドープした青色窒化アルミニウムの作製

ドーパントの三次元分布測定が可能なスルーフォーカスHAADF-STEM法の模式図

▼先進電子顕微鏡と電子状態計算を組み合わせた酸素吸蔵材料の開発

EELSは材料の化学結合に関する情報の取得も可能ですが,その詳細な解釈には第一原理電子状態計算から得られる情報が必要不可欠です.我々は,先進電子顕微鏡と第一原理電子状態計算を組み合わせ,酸素吸蔵材料の化学状態分析を原子スケールで実施し,酸素吸蔵特性の発現機構の解明と新規高性能材料の開発に向けた研究を遂行しています.酸素吸蔵材料に酸素を選択的に吸蔵させるPSA(Pressure Swing Adsorption)法を実用化することにより,省エネルギーな純酸素製造が実現できます.

▶︎<研究例紹介>ブラウンミラーライト型酸素吸蔵材料の解析
▶︎<研究例紹介>元素置換によるブラウンミラーライト型酸素吸蔵材料の酸素吸蔵特性制御

酸素吸蔵材料を用いた省エネルギーな純酸素製造法(PSA法)

▼第一原理計算と量子ダイナミクス計算を用いた水素関連材料の開発

材料の水素脆化による劣化を低減するためには,材料中への水素侵入を抑制しなければいけません.一方,水素透過膜や水素分離膜には高い水素透過特性が求められます.このように材料中への水素の侵入特性を制御することは,水素関連材料の開発において重要です.我々は,第一原理電子状態計算と原子核の量子ダイナミクス計算を活用し,材料中での水素の固溶・拡散特性及びその同位体効果を調査し,水素遮蔽被覆膜や水素透過膜の開発に向けた研究を遂行しています.また,水素が関与する様々な触媒反応メカニズムの解明も行っています.

▶︎<研究例紹介ページ>液化水素用水素分子核スピン転換触媒の開発
▶︎材料中への水素の侵入を抑制するセラミックス被覆膜の開発
▶︎高い水素の透過特性を有するナノ結晶質セラミックス膜の開発
▶︎鉄鋼材料・アルミ合金中への水素侵入過程の解明

表面・界面近傍における様々な素過程

▼先進電子顕微鏡と電子状態計算を組み合わせた省貴金属触媒の開発

持続可能なクリーンエネルギー社会の実現には,高活性かつ耐久性に優れた省貴金属触媒材料の開発が必要不可欠です.触媒劣化特性や触媒反応特性を解明するためには,触媒動作中の電子や原子の振る舞いを理解する必要があります.我々は,第一原理電子状態計算や原子核の量子ダイナミクス計算などの化学反応シミュレーションに基づいた反応速度論や熱力学的解析を用い,触媒金属サブナノクラスターの凝集プロセスや触媒反応機構を素過程から理解するための研究を推進しています.ここから得られる知見を活用し,新規触媒材料を設計しています.
▶︎<研究例紹介ページ>原子レベル分散金属触媒の開発
▶︎省貴金属ギ酸(脱)水素化触媒の開発

軽元素置換グラフェン担体を用いた原子レベル分散白金触媒

▼セラミックス/金属界面の原子構造・電子構造評価

金属とセラミックスを複合させることにより,その諸特性を向上させた先端材料が実用に供されています.電子デバイス材料,金属/セラミック複合材料,熱遮蔽セラミックコーティング,触媒材料などは金属とセラミックスの融合を有効利用した例であり,このような複合材料においては金属/セラミック界面の機械的強度や物理的・化学的安定性が材料特性に重要な役割を及ぼします.そこで,電子顕微鏡法と計算科学的手法によりセラミックス/金属界面の原子構造および化学結合状態を評価し,高機能な材料設計への指針を得ることを目的とした研究を推進しています.

▶︎<研究例紹介ページ>内部酸化により作製したZnO/Pd界面の解析
Pd/ZnO極性界面の高分解能TEM像(左)と界面より得た酸素K端ELNES(右).

▼イオンドープを応用した新規半導体材料創製

多結晶半導体材料で数多く見られる対応粒界は幾何学的に整合性の高い特殊な粒界です.その特徴は,比較的歪みの少ない構造ユニットの組み合わせとして粒界が構築されていることにあります.我々はこの構造ユニットを新たな「結晶構造」と捉え,イオンドープ技法との組み合わせにより,少数元素を構造ユニットの特定サイトに置換させることで新たな機能を発現させることを試みています.
シリコンΣ3対応粒界の高分解能TEM像(左)と原子モデル(中央)ならびに対応粒界に形成された金属原子細線の原子構造と電子密度の計算像(右).

▼次世代原子エネルギー変換材料のキャラクタリゼーションと機能材料創製

次世代原子エネルギー変換システムとして種々のタイプの原子炉が提案されており,炉構成材料に要求される性能はますます過酷になりつつあります.そのため,先進セラミックス複合材料やナノ酸化物分散構造を利用した鉄鋼材料の開発が精力的になされています.我々は,マルチビーム超高圧電子顕微鏡を利用したシミュレーション照射試験により,それら先進材料の耐照射損傷特性を探るとともに,原子構造や微細組織のキャラクタリゼーションに基づいた検討を重ねることにより,候補材料のスクリーニングや新規材料開発へのフィードバックを行っています.
電子線照射したフェライト鋼のボイド形成(左)とステンレス鋼の照射下粒界移動過程のその場観察HRTEM像(右).

▼マルチ高エネルギービームと計算科学による多機能エネルギー変換材料設計

マルチビーム超高圧電子顕微鏡では,電子線により材料の内部組織を観察すると同時に,二基のイオン加速器により異種原子を材料内に注入することができます.このため,材料内部では非平衡状態での種々の反応が進行し,従来のプロセスでは得られない新規材料の創製が可能となります.これら非平衡材料反応挙動について,第一原理電子状態計算から,分子動力学,機構論的モンテカルロ法,反応速度式等を用いたマルチスケール計算解析によりそれぞれの素過程を明らかにし,マルチ高エネルギービームを用いた新規材料創製への基礎を確立することを試みています.
イオン注入で形成された非平衡相の高分解能TEM像(左)とKMC法で計算された界面近傍での照射下点欠陥濃度(右).