内部酸化により作製したZnO/Pd界面の解析


▼内部酸化によるZnOナノ粒子の作製

 酸化亜鉛(ZnO)は古くから白色顔料や化粧品として利用されています.近年では,バンドギャップが広く可視光を透過すること,Zn原子を他の原子で置換することにより導電性を付与することが可能であることなどの特徴から,フラットパネル駆動用の透明電極としても注目されています.また,半導体デバイスや光デバイス用の材料への応用も期待されています.これらのデバイスの性能はZnO/金属界面の原子構造やその物性が大きく影響するため,これらを理解することがデバイス開発において重要です.

 また,ZnOは粒子サイズをnmオーダーまで小さくすることにより,量子サイズ効果(バンドギャップの広がりなど)と呼ばれる現象により,バルク結晶と比較し発光効率が向上することが知られています.本研究室では母相金属内部で亜鉛を酸化させる内部酸化(図1)を用いることによりZnOナノ粒子を作製しています.内部酸化によるZnOナノ粒子作製は,ナノオーダーからサブミクロンオーダーの微細な粒子が得られます,ZnO/金属界面は原子レベルで平坦である,ZnOナノ粒子表面上の欠陥が少ない,といった利点が存在します.

図1 (左)内部酸化と(右)外部酸化による酸化物作製法の模式図

▼ZnO粒子作製における内部酸化温度の影響

 詳細はK. Watanabe et al., Microscopy, 63 (2014) 463をご覧ください.

▶︎内部酸化温度:900 ℃の場合

 図2(a)はPd-18at.%Zn合金を100時間内部酸化した試料の透過型電子顕微鏡(TEM)像です.図2(a)中に矢印で示すようにZnO粒子はフラットな(111)Pd/{0002}ZnO界面を持っています.図2(b)は高分解TEM(HRTEM)像で,ここから図2(c)のようにフラットな界面にはZnとOが終端している2種類が存在することがわかりました.材料の電子状態を反映する電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いた所,図2(d)のようにO終端界面ではPdとの結合に起因するピークが現れることがわかりました.

図2 (a) 900 ℃で100時間内部酸化を行う事で作製したZnO粒子のTEM像. (111)Pd/{0002}ZnO界面を矢印で示している. (b) 界面のHRTEM像. (c) (111)Pd/{0002}ZnO界面の原子モデル.Pd,Zn,O原子をそれぞれ,黄,青,赤急で示している. (d) O終端ZnO/Pd界面とバルクZnOの酸素K端ELNES.
K. Watanabe et al., Stability of {111}Pd/{0002}ZnO polar interface formed by internal oxidation of Pd–Zn alloys, Microscopy, 63 (2014) 463, Oxford University Press.

▶︎内部酸化温度:1000 ℃の場合

 図3(a)に示すようにZnO粒子サイズが増加し,湾曲した界面を持ちます.O終端ZnO/Pd界面である(111)Pd/(000-2)ZnO界面においてO-Pd間結合に起因するピークがのEELSスペクトルに現れ,これらが共有結合していることを明らかにしました(図3(b)).また,HRTEM像から,この湾曲した界面はO終端ZnO/Pd界面であることがわかりました.これはPdが貴金属であるため,高温ではO原子との親和力が低下し,O終端ZnO/Pd界面の他の界面に対するエネルギー的な利得が減少したためと考えられます.一方,金属原子同士が結合しているZn終端ZnO/Pd界面はそのフラットな構造を維持しています.

 これらの結果は,内部酸化によるZnO粒子の作製において,その内部酸化温度がZnO粒子のサイズ,形態,界面構造に大きな影響を与えることを意味しており,望ましいZnO粒子作製のための条件設定に役立ちます.

図3 (a) 1000 ℃で100時間内部酸化を行う事で作製したZnO粒子のTEM像. (b) ZnO/Pd界面とバルクZnOの酸素K端ELNES.
K. Watanabe et al., Stability of {111}Pd/{0002}ZnO polar interface formed by internal oxidation of Pd–Zn alloys, Microscopy, 63 (2014) 463, Oxford University Press.