ブラウンミラーライト型酸素吸蔵材料の解析


▼酸素製造法の省エネルギー化

 現在,純酸素は空気中の比較的沸点が高い酸素のみを選択的に液化する深冷分離法で主に製造されています.この酸素製造法は空気の圧縮・冷却(-183℃)が必要なため,大量に純酸素を製造できる一方,エネルギー消費が大きいという問題点があります.

 そこで酸素吸蔵材料に酸素を選択的に吸蔵させるPSA(Pressure Swing Adsorption)法が提案されています.PSA法では温度ではなく圧力を変化させるため,エネルギー消費を低減できます.

▼酸素吸蔵に伴う構造及び電子状態変化の原子分解能での解析

 詳細はG. Saito et al., Chemistry of Materials 29 (2017) 648をご覧ください.
 本研究で用いた酸素吸蔵材料はエネルギーメディア変換材料研究室に作製していただきました.

 本研究ではブラウンミラーライト型酸素吸蔵材料Ca2AlMnO5+δに着目します.図のように材料中にMnとAlの層状構造をそれぞれ有しています.この材料は比較的クラーク数の大きな元素から構成されるため安価であり,また様々な元素ドープにより酸素吸蔵特性(使用可能な温度や酸素吸脱蔵の圧力)を変化させることができます.
 このとき,酸素吸蔵のメカニズムやドーパントが酸素吸蔵特性に与える影響を解明するためには,原子レベルでの解析が必要となります.そこで本研究では走査透過型電子顕微鏡(STEM)と第一原理計算を用いて原子レベルで原子構造と局所電子状態を解析しました.

 まず,電子エネルギー損失分光法(EELS)により酸素から得られるスペクトル(K端ELNES)が図3に示すように材料中の酸素のサイトに依存して変化することを明らかにしました.これは,各サイトでの酸素原子は周囲の原子とそれぞれ異なる化学結合状態を有していることを意味しています.このようにSTEMを用いることで原子レベルで局所電子状態を調査することができることがわかります.
 また,酸素吸蔵前後でスペクトルの低エネルギー部分に変化があることもわかります.第一原理計算と組み合わせることで,この部分は酸素原子とマンガン原子の結合状態を反映していること,酸素吸蔵に伴いマンガンの電子が一つ減少することによりスペクトルが変化することを明らかにしました.さらに,このマンガンの電子数の減少によりヤーン・テラー歪みが解消されることでMn-O間の結合距離が短くなり,酸素吸蔵に伴う体積変化を緩和していることもわかります.

図3 酸素吸蔵(a)前(b)後の酸素K端ELNESのサイト依存性.
Adapted with permission from G. Saito et al., Chemistry of Materials 29 (2017) 648.. Copyright 2016 American Chemical Society