白色LEDに用いられるCa-α-SiAlON:Eu蛍光体の解析


▼白色LED用材料としてのSiAlON

 現在用いられている白色LEDの一つには青色LEDと黄色の蛍光体を組み合わせたものがあります.蛍光体には耐久性に優れ,高温でも性能が低下しないSiAlONが用いられています.SiAlONとは,その名の通りSi,Al,O,Nから構成されるセラミックス材料で,希土類元素をドープすることで様々な蛍光特性を示します.

▼Ca-α-SiAlON:Eu中のドーパント導入量が蛍光特性に与える影響の解明

 詳細はG. Saito et al., Journal of Alloys and Compounds, 681 (2016) 22.をご覧ください.

 本研究では黄色の蛍光特性を示すCa-α-SiAlON:Euに着目します.燃焼合成法で作製した材料中のドーパントの導入量が蛍光特性に与える影響を調査しました.その結果,材料中のEu導入量が変化すると蛍光の波長(色)が変化することを明らかにしました.(図2)

図2 (左)Ca-α-SiAlON:Euy粉末(y=0.05, 0.075, 0.10, 0.15)の室温での吸収・発光スペクトルと(右)国際照明委員会のXYZ表色系ダイアグラム中のCa-α-SiAlON:Eu2+とYAG:Ce3+.
G. Saito et al., Journal of Alloys and Compounds, 681 (2016) 22.

▼Ca-α-SiAlON:Eu中のCa導入量が蛍光特性に与える影響の解明

 詳細はG. Saito et al., Ceramics International, in press.をご覧ください.

 次に燃焼合成法で作製した材料中のCaの導入量が蛍光特性に与える影響を調査しました.その結果,材料中のCa導入量が変化すると蛍光の波長(色)と蛍光強度が変化することを明らかにしました.(図3)

図3 (a)Cax-α-SiAlON:Eu粉末(x=0.4-1.6)の室温での吸収・発光スペクトルと(b)蛍光強度.
G. Saito et al., Ceramics International, in press.

▼燃焼合成時の希釈率ΦがCa-α-SiAlON:Euの蛍光特性に与える影響の解明

 詳細はG. Saito et al., Ceramics International, in press.をご覧ください.

 燃料合成を行う場合,反応温度を制御するため希釈材を用います.燃料合成の原料中の希釈材の比である希釈率Φが蛍光特性に与える影響を調査しました.その結果,希釈率が低いと高温になるため高温安定相であるβ-SiAlONが形成され,希釈率が高いと低温になるため未反応のα-Si3N4やAlNが残留することがわかり,希釈率が0.6の場合に最も蛍光強度が高くなることを明らかにしました.(図4)

図4 (a)作製したCa-α-SiAlON:Euの断面写真,(b)各相の重量比,(c)蛍光強度.
G. Saito et al., Ceramics International, in press.

▼Ca-α-SiAlON中のCa分布の解析

p> 詳細はN. Sakaguchi et al. Microscopy 65 (2016) 400N. Sakaguchi et al. Materials Transactions, acceptedをご覧ください.

 上記のように材料中のドーパントの導入量が蛍光特性に大きな影響を与えることを明らかにしました.次に問題となるのが,導入したドーパントの分布が蛍光特性に影響を与えるのかどうかということです.そこで透過型電子顕微鏡を用いたHAADF-STEM法により材料中のドーパントの分布を解析する手法を提案しました.

▶︎本研究のポイント
・HAADF-STEM法では元素の識別が可能である.(右図)
・HAADF-STEM法では透過電子線を観察するため,通常二次元の情報しか得られない.
・原子列中のCaの位置(奥行き)を実験とシミュレーションを組み合わせ調査する.
・Ca間に働く相互作用を,実験とシミュレーションを組み合わせ調査する.

▶︎本研究で明らかになった点
・原子列間の距離が近い場合,入射した電子線が飛び移る.(図6)
・原子列中のCaの位置によりHAADF-STEM像の明るさが異なり,奥行き方向の分布も評価が可能である.(図7)
・Ca間には,スクリーニングされたクーロン反発力が働いている.

 上記のように,電子顕微鏡実験とシミュレーションを組み合わせることにより,SiAlON中のドーパント分布を解析することができることを明らかにしました.

図6 Ca-α-SiAlONの(a)原子モデル,(b)マルチスライス(MS)シミュレーション像,(c)HAADF-STEM像. (d)は N1とSi1原子列での入射した電子の伝搬の様子.
N. Sakaguchi et al., Estimating the dopant distribution in Ca-doped α-SiAlON: statistical HAADF-STEM analysis and large-scale atomic modeling, Microscopy Microscopy 65 (2016) 400, Oxford University Press.

図7 (a)様々なCa分布を持つCa-α-SiAlONのMSシミュレーション像と(b)入射した電子の伝搬の様子.
N. Sakaguchi et al., Estimating the dopant distribution in Ca-doped α-SiAlON: statistical HAADF-STEM analysis and large-scale atomic modeling, Microscopy Microscopy 65 (2016) 400, Oxford University Press.

▼Ca-α-SiAlON:Eu中のEu分布の解析

 詳細はG. Saito et al. Ultamicroscopy 175 (2017) 97をご覧ください.

 Euはドープ量が少ないこと,その他の構成原素と比較し原子番号が大きいことから.スルーフォーカスHAADF-STEM法によりその分布を解析することができます.スルーフォーカス法とは試料の奥行き方向に電子線の焦点位置を走査する手法である.焦点位置に十原素が来た場合にシグナルが強くなるため,Euの位置を判別することができる.

図8 スルーフォーカスHAADF-STEM法の模式図.

▶︎本研究で明らかになった点
・Euの三次元分布を直接観察することができた.(図9)
・得られた分布からEu間にはクーロン反発力が働いていると考えられる.

図9 異なるCa濃度のCa-α-SiAlON:Eu中のEuの三次元分布.
G. Saito et al. Ultamicroscopy 175 (2017) 97.